表装

長く存在を忘れていた箱があった。見つけた時に一瞬の既視感があったのでそう思ったが、本当は初めてみた箱だったのかもしれなかった。
箱といっても四角くはなく、帽子を入れるような平たい丸い箱だった。薄墨でまだらな水面模様が描かれていた。
特別寒い春の日だった。
陽の色は白く眩しく、汚れた硝子越では雪が降っているようにもみえた。
そういった風な日に箱を見つけた。
両手でもてばずしりと重い。
冷えた掌がじんとする。
箱を振ると、がさがさ、ことことと音が鳴る。砂や石にしては軽い音だった。
両手で箱を抱え、裏庭に出ると陽が暮れていくところだった。宵の明星が煌めいて、掌にて箱の表面をひたりと冷たく感じた時、初めてみたのは箱だけであって中身はよく知るものであったことを思い出した。

(20070810)


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